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青森地方裁判所弘前支部 昭和36年(ワ)221号 判決 1964年7月10日

主文

一、原告と被告築館富雄との間において、原告が別紙第一目録表示の不動産につき所有権を有することを確認する。

二、原告と被告藤田鉄弥との間において、原告が別紙第二目録表示の不動産につき所有権を有することを確認する。

三、被告築館富雄は原告に対し別紙第一目録表示の不動産につき所有権移転登記手続をせよ。

四、被告藤田鉄弥は原告に対し別紙第二目録表示の不動産につき所有権移転登記手続をせよ。

五、被告築館富雄は原告に対し、別紙第一目録表示(三)の建物から退去してこれを明渡せ。

六、訴訟費用はこれを五分し、その四を被告築館富雄の、その一を被告藤田鉄弥の負担とする。

事実

原告は主文第一項ないし第五項と同旨及び「訴訟費用は被告両名の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、別紙第一、二目録表示(以下第一、二という)の不動産は原告の所有のものである。「なお第一、二の従前の表示は次のとおりである。すなわち別紙第三目録表示(以下第三という)の(一)の建物が昭和三二年三月一五日第一の(三)と第二の(二)の各建物に分割されてその旨の登記を経由し、第三の(二)の宅地が同日第一の(二)と第二の(一)の各宅地に分筆されその旨の登記を経由したものであり、第一の(一)の宅地のみが従前どおりの表示のままである。」

二、原告が右所有権を取得したいきさつは次のとおりである。すなわち原告は昭和二八年七月二二日青森地方裁判所弘前支部の競売申立事件において、第一、二の不動産につき競落許可決定を受け、同年九月一一日競落代金を納付し、同日その所有権移転登記を経由した。

三、1、ところで原告は昭和三〇年一一月一五日訴外津軽第一物産株式会社の代表取締役の訴外盛永義夫から個人名義の財産をもつていないと取引先の信用を得られないから、第一、二の不動産の所有名義だけでも貸してほしい旨の申入れを受け、第一、二の不動産につき所有権移転請求権保全の仮登記をすることだけについて承諾し、その仮登記手続をする便宜上、売買予約を結んだように仮装し、この売買予約を原因として同年同月一八日右仮登記を経由した。

2、ところが訴外盛永は昭和三一年六月一三日「宮本」と刻んだ有合せの印章を使用し、弘前市役所に原告の印鑑届をした上、印鑑証明書の下附を受け、かつ第一、二の不動産の所有権移転本登記申請書を偽造し、同年七月五日第一、二の不動産につき右仮登記の本登記の申請をし、その旨本登記を経由した。

3、しかしながら訴外盛永は原告に対し、右予約の完結権行使の意思表示をしたことはなく、もちろん、右同日原告は訴外盛永との間に第一、二の不動産につき売買契約を結んだこともない。

4、したがつて右所有権移転登記は無効である。

四、右所有権移転登記経由後に、次のとおりの所有権移転登記が順次なされているが、前記と同一の理由に基づき、右各登記はいずれも無効である。

1、昭和三一年九月七日訴外盛永から訴外太平洋石油販売株式会社へ

2、昭和三二年一月四日右訴外会社から被告藤田へ

3、(第一の不動産についてのみ)昭和三二年三月一五日被告藤田から被告築館へ

五、被告築館は昭和三二年三月二五日ころから第一の(三)の建物に居住してこれを占有している。

六、よつて、原告は第一、二の不動産の登記簿上の所有名義人である被告両名に対し、主文第一、二項の裁判を求めるとともに、訴外盛永、訴外会社及び被告らに対し、その各自のための所有権移転登記の抹消登記手続を求める代りに、登記簿上の最終の所有名義人たる被告らに対し主文第三、四の裁判を求め、さらに第一の(三)の建物の不法占有者たる被告築館に対し主文第五項の裁判を求める。

七、後記被告主張六の12は争う。

証拠(省略)

被告両名訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一、原告主張一の事実中原告がもと第一、二の不動産の所有者であつたこと、分割と分筆の各登記を経由したことは認める。

二、同二の事実は認める。

三、1、同三の1の事実中売買予約を結んだこと及び所有権移転請求権保全の仮登記を経由したことは認めるが、その余の事実は否認する。売買予約は有効に成立した。

同三の2の事実中原告から訴外盛永義夫への所有権移転登記の経由の点は認めるが、その余の事実は否認する。

2、右登記は有効である。すなわち、訴外盛永は昭和三一年七月五日原告に対し、予約完結の意思表示をしたことにより、右当事者間に第一、二の不動産につき売買契約が成立した。そして原告は同日訴外盛永とともに所有権移転登記申請手続をし、右登記がなされたのである。

四、同四の事実中各所有権移転登記のなされていることは認める。

五、同五の事実は認める。

六、かりに原告と訴外盛永との間の売買契約が有効に成立していないとしても、

1、被告藤田の前所有者たる訴外太平洋石油販売株式会社の所有権移転登記が抹消されていない現在では、原告の被告両名に対する本訴請求には応じられない。

2、原告は前記の仮登記を長期間抹消せずに放置し、かつ右訴外会社は訴外盛永が第一、二の不動産の登記簿上の所有名義人であることを、被告藤田は右訴外会社が第一、二の不動産の登記簿上所有名義人であることを、被告築館は被告藤田が第一の不動産の登記簿上の所有名義人であることを信じてそれぞれ第一、二の不動産を買受けたのであるから、原告がかかる善意の転得者たる被告両名に対し、所有権移転登記手続を請求することは、権利の濫用であつて許されない。

七、よつて原告の本訴請求はいずれも失当である。

証拠(省略)

理由

一、第一、二の不動産がもと原告所有のものであつたこと、第一、二の不動産につき、原告主張とおりの所有権移転請求権保全の仮登記及び各所有権移転登記、(及び分筆、分割の各登記)がなされていることについては当事者間に争がない。

二、成立に争のない甲第四号証、乙第六号証、第七号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告主張三の1の事実(売買予約)が認められ、右認定を左右するにたる証拠はない。

ところで被告両名は訴外盛永義夫が昭和三一年七月五日原告に対し売買予約の完結の意思表示をしたと主張しているのでこの点について検討するのに、甲第五号証の三(所有権移転本登記申請の委任状)が真正に成立したことを認めるにたる証拠はなく、その他右主張事実を認めるにたる証拠は何もない。

三、したがつて原告と訴外盛永との間に、右同日第一、二の不動産について売買契約が成立したものということはできず、原告から訴外盛永への所有権移転登記は無効であるというべく、かつこの無効な登記を前提にしてなされたその後の各所有権移転登記も無効であり、原告は依然として第一、二の不動産の所有者であるといわなければならない。

四、被告築館が第一の(三)の建物に居住してこれを占有していることは当事者間に争がなく、かつ同被告は占有の正当権原について何ら主張立証していないから、右建物の所有権を侵害しているものといわざるをえない。

五、ところで被告主張六の1の見解は採用できない。原告は第一、二の真実の所有者であるから、登記簿上の所有名義人たる被告両名に対し、前記の無効な各所有権移転登記を抹消せずとも、第一、二の不動産の所有権をもつて対抗できるものと解するのが相当である。

六、してみると、被告築館は原告に対し、第一の不動産につき所有権移転登記手続をするとともに、第一の(三)の建物から退去してこれを明渡す義務があり、被告藤田は原告に対し、第二の不動産につき所有権移転登記手続をする義務がある。

七、次に被告両名の権利濫用の抗弁について判断するに、被告両名の各本人尋問の結果によれば、その主張六の2の事実が認められるが、この認定事実から直ちに権利濫用であると判定することは到底できないから、右抗弁は採用しない。

八、よつて原告の本訴請求はいずれも理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条第一項但書を適用して主文のとおり判決する。

別紙

第一目録

(一) 青森県南津軽郡大鰐町大字唐牛字村井八番一号

宅地  四四坪五合

(二) 同所九番一号

宅地  二二一坪

(三) 同所九番一号

家屋番号大字唐牛六〇番

木造草葺平家建居宅一棟

建坪 四二坪五合

第二目録

(一) 青森県南津軽郡大鰐町大字唐牛字村井九番二号

宅地  七六坪

(二) 同所九番二号

家屋番号大字唐牛六〇番二号

木造木羽葺平家建物置一棟

建坪  一二坪

第三目録

(一) 青森県南津軽郡大鰐町大字唐牛字村井九番八番一号

家屋番号大字唐牛六〇番

木造草葺平家建居宅一棟

建坪  四二坪五合

附属建物

木造木羽葺平家建物置一棟

建坪  一二坪

(二)  同所九番

宅地  二九七坪

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